蠢蝦螽蟷昆蟲記

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湿原を統べる重騎士

 今回のターゲットは関東~東北に生息するオサムシ中で最高峰と言っても過言ではない『重騎士』.(筆者の勝手なイメージです)
良好な湿地帯の激減と採集圧により絶滅が危惧されている種である.
今年初のオサ掘りであるが,無謀にも本種の新規開拓を目標に4人の精鋭が集結した.

 メンバーはA森,S田(外道),K賀,筆者(沢田)である.
昨年度から良さそうな湿地帯・水田(谷戸)の情報を収集.連休を利用し決行に踏み切った.

 本種が生息する環境は長靴でも進軍が困難な環境が予想され,前日の天気予報も雨だったため胴長やレインコートは標準装備で挑む.

※尚,生息地の情報は県単位のレベルで控えさせて頂きます.また,現地での生態写真は携帯のみです.




11月28日
PM22:00…
 集合場所である駅に到着.すでに小雨がぱらついおり,この時点から雲行きが怪しい.
しかもA森の自家用車はなかなか現れない.クソ寒い中,小一時間ほど待つと霧の中からフロントライトの眩い光が.車内にはカーナビなど付いていないので,iPhoneを頼りに目的地まで赴く.早朝から発掘を開始したいがために集合時間を深夜にしたが,前日の仕事の疲れと車内の高すぎるテンションにより早くも疲弊.辛うじて山中に存在したコンビニの駐車場にて朝を待つ.夏季なら様々な昆虫が飛来してきそうな優良物件だったが,蛾一匹いなかった.

11月29日
AM5:00
 車体に当たる雨粒(大粒)により目が覚める.外気温は5℃.
このような劣悪な状況で採集をするのは学生時代ぶりである.それでも文句ひとつ言わないところが昆研生の良い所である.寒かろうが濡れようが目的はただ一つ.上下レインコート・汚ねぇ長靴・何が入っているのか良く分からないボトルを装着した奴らを見るコンビニ店員の目が忘れられない.

 しばらく車を走らせると地図上では小さな池沼が点在するエリアに着いた.マップの航空写真では良さそうな場所でも行ってみると微妙な環境が多かったので,現地の状況を見てから車を降りるという戦法をとる.1ヵ所目は谷戸にある休耕田.周りはスギ林だがオサムシの匂いがぷんぷんする.

 林内は倒木が無数にある.手鍬を入れると簡単に崩れてしまうほど腐食していた.
トウホククロナガオサムシやコクロナガオサムシが多数出現.立ち枯れや根返りにはマイマイカブリの姿も.この地域の亜種はコアオマイマイカブリとなる.
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コアオマイマイカブリ Carabus (Damaster) blaptoides babaianus Ishikawa, 1983
ミヤママイマイより色のバリエーションが若干豊富.
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今回の最大個体と最小個体.大型になるほど黒っぽくなるのはどの亜種も共通なのか.最大個体はK賀採集.
ミヤママイマイとの違いは前脚跗節裏面の細毛が発達している点だという.
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コアオマイマイの前脚跗節裏面の細毛.エゾマイマイやキタカブリと同様に密生している.

 “重騎士”が入りそうな材は数あれど,全くかすりもしない.湿地に生息するという情報と勘だけを頼りに次のポイントへ.次は沼と周辺に広がる湿地帯.アシやガマが生い茂る環境だ.水分を多く含んでいる材が多く,ここならば期待できるはず.

 材を割るとオオナガゴミムシ,ヨツボシゴミムシ,アオゴミムシのマンションが多数出現.肝心のオサムシはキタアオオサムシ,コアオマイマイが数頭.時刻は早くもPM14:00.やばい…やばいぞ……

 昼飯を買っていなかったことと,土砂降りの中湿地を這いずり周っていたため体力は限界.車中泊もよろしくなかった.とりあえず腹が満たせるものをとコンビニへ.下着まで浸水し汚水が滴るズボン・泥だらけのレインコート・腰に刺さった手鍬・・・とうとうコンビニ店員は私と目を合わせてくれなくなった.

 目星をつけていたエリアだっただけに悔しさが残るが,居ないものを捕ることは出来ない.大幅なポイント変更へ.
河川沿いや池の周辺の湿地を探すも,どれもパッとしなかった.せめてマイマイだけでも追加しようと最初のポイントに戻る.
 どうせなら反対側に行ってみようということで沼畔の道を走っていると…なにやら良さそうな環境が姿を現す.

 一見普通のハンノキ林なのだが,全体に苔が繁茂し,ミズバショウやミツガシワ・ワタスゲなどが自生.ハンノキに混じり,アカマツやコナラなどの雑木が生えるような環境だ.・・・・・灯台下暗しとはこのこと.車を止めてから10秒で総員が無言で散開.泥炭ドームの湿った大地を踏む音だけが林内に消えていく.

 私は先を急ごうと手前にある倒木は無視しどんどん先へ進む.後続のメンバーは各個,倒木や崖を掘り始めた.
開始3分後,A森の叫び声と共に2名の足音が声のする方に向かう.

「ぅぅううああああああああ!!!!よっしゃぁああああああ!!」

 なにやらレアな虫を捕ったらしい.A森は糞虫屋であるから.「冬季にしか得られない珍しい糞虫でも捕ったのだろう」とそのまま後にする.(本当は分かっていたが信じたくなかった.信じられなかった.)その後の私の戦績はというとマイマイ数頭とコクロナガ・・・・・・

 車に戻るとA森は座席を倒して爆睡.起きてただ一言「明日は捕れますよ」とだけ発した.


11月30日
 全て車中泊で乗り切ろうと思っていたが体力的に限界を迎えていたため,ネットカフェで一夜を過ごす.

昨日最後のポイントで生息は確認されたものの,どのような状態の材に居るのかが見当が付かない.A森曰く普通の立ち枯れ材に入っていたらしいが・・・とにかく昨日に引き続き湿地内を這いずり周る.

 この湿地は一見状態が良い様には見えるが,本来育成しないアカマツが侵入してきている所を見るとそう長くは持たないかもしれない.一番良くある倒木がハンノキ.次いでアカマツなので,ハンノキを優先的に攻めていた.この時点での成果はエチゴトックリゴミムシのみ.かなりいい虫だがそれどころではない.

AM10:30
 ここでS田(外道)の雄叫びが聞こえる.
この時ばかりは全力で現場に向かったが,木の可食部位はすべて削られた後だった.湿地に向かって倒れ,半分が水中に沈んだような倒木で奴を“2頭”も掘り出していた.このことから他のオサムシが入っているような材は好まないことが推察される.同じような条件の材を探すも,ついに見つけることは出来なかった.

PM13:30
 S田が採集してから誰も追加できない状況が続いていたが,昼食へと向かう.私とK賀以外が採集出来たので成果としては申し分がないのだが,憧れのオサムシを見せつけられ精神が崩壊しそうである.
 高速道路の渋滞が予想され,早めに帰る予定だったがもう1時間だけ採集することに.これが本当にラストチャンス.

 先ほどの場所は掘る場所がもうないので,誰も入っていない藪の中を彷徨うことに.カミキリの材採用に持ってきた鉈でノイバラやササを除去しながら進むが,目ぼしい材は全くない.ササ藪の向こうにも湿地があると予想していたのだが,目の前には沼が.もう先には進めそうもなく苔むしたアカマツが沼内へ倒れていたので,これを伝って水深を確認しようとした.

 足をかけると木の大半が崩れて沼へ落下.マダラクワガタが入りそうな赤枯れの材だったが,水面にコアオマイマイが泳いでいたため,回収.相当なマイマイマンションを期待し最後の晩餐にありつく.


 手鍬を入れた瞬間に材が砕け,大きな越冬窩が・・・

そこにはマイマイではなく夢にまで見たオサムシが鎮座していた.

咆哮を上げたのは言うまでもない.
K賀にも聞こえたようで,すぐに合流.2人で倒木の解体作業を行い,筆者3頭,K賀1頭を得ることが出来た.
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全員が捕れない事を常に想定していたとはいえ,まさか全員が採集出来るとは思わなかった.

※写真は今回の成果の総合計.

捕れて良かった・・・

【以下室内撮影】
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マークオサムシ Apotomopterus maacki aquatilis Bates,1883
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湿地帯で活動するからなのか体を浮かせるようなポーズを頻繁にとる.
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※苔は生息地のものではありません.上翅は漆黒ではなく薄い緑色が乗る.
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重厚な体型がたまらん・・・・・・・・・・・・
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K賀氏採集の奇形個体♀.マークオサムシの奇形は初めてお目にかかる.左上翅の点刻・条線が完全に失われている.


一時は夏に再訪してコップを埋めようかと思ったが,その必要は無くなった.
環境のポテンシャルを考えるとそれで良かったのかもしれない.改めてこの虫の生息できる環境の貴重さを実感した.

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by wriggle00 | 2014-12-15 18:48 | Carabidae